虫歯の発症メカニズムは基本的に変化しませんが、生理的変化・生活習慣の変化に伴い口腔環境が悪化し、虫歯の発症と進行を促進してしまいます。
歯肉炎・歯周炎が発症、進行しやすい口腔内環境に加え、食事・間食回数の増加と、つわりによる口腔清掃不良の状態が重なり、目に見える症状として、次のものが挙げられます。
妊娠性歯肉炎(歯肉から出血しやすくなる) |
妊娠性エプーリス(歯と歯の間の歯肉の浮腫、増殖がみられる) |
原因は未だ完全には解明されていません。
しかし、自己免疫、ウイルス感染、ビタミン不足、ストレスなどの説があります。
口腔清掃不良、内分泌機能の変化、栄養バランスのくずれから口内炎は生じやすく、治りにくくなります。
生まれたばかりの赤ちゃんのお口の中にはう蝕原性菌(mutans streptococci:MS菌)は存在しません。小児う蝕の始まりは、母親からの乳児への唾液を介して伝播することが一番多いので、「母子伝播」・「母子感染」といわれます。特に食べ物をあらかじめ噛んで子供に与える「噛み与え」やスプーンやお箸を親子で共有する行為によって伝播します。母親がう蝕原因菌を多く持っていれば、赤ちゃんに感染する確率・感染する菌数が多くなる可能性が高くなります。
出来るだけ出産前に虫歯の治療を終わらせておくことが大切です。
妊娠中の歯の治療は、放置した際のリスクと治療のリスクを比較して優位が認められれば治療を選択する。
子どもの体の器官が形成される大切な時期。この時期の歯の治療は、麻酔やレントゲン、薬などを使用しないで済む小さな虫歯の治療や歯石とり程度にとどめるのが安全。もし痛みがある場合は応急処置でしのいで、安定期になってから治療するのがオススメです。
5〜7ヶ月の安定期は歯の治療に最も適した時期。この時期であれば麻酔が必要な虫歯治療や抜歯を含め、ほとんどの歯科治療を行なうことができます。
仰向けで治療するとおなかが圧迫されやすく体に負担がかかることが多い時期。歯科治療は不可能ではないものの、早産の恐れを考えると妊娠中期よりリスクがあると考える必要があります。
妊娠中に胎児などへの影響が気になるポイントは、レントゲン・薬・麻酔の3つでしょう。
これらをむやみに怖がるとしっかりと治療が行なえず痛みや腫れがひどくなりがち。我慢し続けるのも体に良くありません。正しい知識を持つようにしましょう。
安定期に通常治療を行なう場合で、歯科局所麻酔を使用しないと痛みが強く治療が難しい場合は、麻酔を行う方が無難です。普通の局所麻酔の使用量で安定期であれば、胎児への心配はほとんどないとされています。歯科で使う局所麻酔薬(キシロカイン)は無痛分娩の際にも使用されます。
レントゲンは最小限の使用が前提です。しかし歯科のレントゲン撮影はX線(エックス線)の線量も少なめで、さらにX線防護のエプロンを併用するため、胎児にX線が直接影響する可能性は低いと考えられます。
心配な場合は8週目までの妊娠初期の時期だけは避けて行います。
歯科で使用する薬も、種類や胎児の成長時期によっては胎児に悪影響があるものもあります。しかし抗生物質などは腫れや炎症を落ち着かせるのにどうしても必要なもの。その場合は危険の少ない薬を選んで処方するのが一般的です。
これらは妊娠中に使わずに済めばそれに越したことはありませんが、使ってしまったから必ず胎児に影響するというものでもありません。むしろ強い痛みや不快感を我慢して状態を放置するより、応急処置でも良いので、ある程度治療をした方が精神面でも食生活の面でもメリットが大きいこともあります。
妊婦さんは出産後も忙しく虫歯治療のための通院時間が取れないことも多いようなので、後で苦労することを考えてできる時にしっかり治療しておくことが大切です。
最近の研究結果では、歯周病に感染している人は通常の人に比べ、切迫早産などになるリスクが4〜7倍程度高くなるというという報告が相次いで発表されています。
歯周病菌などで炎症が起こると口内に「サイトカイン」という物質が増殖するのですが、これらが歯周病などの炎症にともなって血液中で増殖すると、子宮が収縮したり陣痛が引き起こされたりするというリスクがあるのです。
つわりがひどく歯磨きも大変というケースも少なくないようですが、口の中を清潔に保つことは早産リスクの低減に役立つことも知っておいた方がよいでしょう。
最後に一点。昔から妊娠すると歯がボロボロになると言われていますが、これは迷信です。
妊娠中に体内のカルシウムが不足したとしても、歯に含まれるカルシウムではなく、他の骨のカルシウムが先に使われます。
しかも虫歯菌が最初に歯に穴をあけるエナメル質は、ほとんどがカルシウムを含んでいない無機質(石のようなもの)でできているため、体内のカルシウム不足が突然成人の歯を脆くすることはありません。